「MINOLTA TC-1という名機」デジカメユーザーにもオススメしたい高級コンパクトフィルムカメラ
昨年の話だったでしょうか…
ヴェネチアの医者の元へ旅立っていったMinolta TC-1が返品されて戻ってきてしまったのです。なんでもシャッターが途中から切れなくなるという不具合があるとのこと。「しっかり検品したはずなのに…」そう思って、フィルムを入れて調べてみると確かにシャッターが途中で切れなくなる不具合が発生してしまいました。
購入された方は以前からのお得意様ということもあり、謝罪ののち返品にも快く応じていただき、「実は最近Leica M3も欲しいのだけれども状態が良いものが見つからないんだ。これはアキラにしか頼めないミッションだよ」とこちらの不備にもかかわらず、新たな注文までしてくれるという神対応。「こういう顧客は大切にしたいものだな」と感じながら、これ以上ないくらい状態の良いM3を必死に探しだし、ヴェネチアに送り出したのを覚えています(あれは私の仕入れ史上、会心の仕入れでした)。その後、ヴェネチアの医師からイタリア人らしい熱すぎるほどの賞賛のメールをいただき、ことなきを得ました。
それはさておき、問題は残されたTC-1。
確実にネジバネ関係の故障ではないと踏み、自分で修理するのは不可能。かと言って部品取りにはもったいないほどきれいな外観だったので、ケンコートキナーに相談し修理してもらうこととなりました。ケンコートキナーでは状態を見て、部品があれば修理できますよとのことだったので、一応送ってみることにしました。
数週間後、なんとかギリギリ修理可能だったようで、無事動作品として復活し、Minolta TC-1が私の手元に戻ってきました。しかし、修理したのは良いのですが、そこそこ(確か2万円くらい)修理代金がかかってしまい、商品としての価値はほぼ皆無。「売っても利益が出ないなら興味本位ではあるけど、自分用として使うことにするか」と仕方なしではありますが、晴れてTC-1が私の愛用カメラとなったのです。
各社のとがった個性が面白い高級コンパクトフィルムカメラ
90年代の後半に高級コンパクトフィルムカメラブームがありました。まだコンデジが出始めたくらいで、デジタルがフィルムをここまで凌駕するとまで考えられていなかった時代の話です。一眼レフでないにもかかわらず、1台10万円以上とかなりお高めでしたが、ブームも相まって飛ぶように売れたそう。各社が知恵を絞って、様々な特徴あるカメラを生み出していきました。
高級コンパクトフィルムカメラといえば、有名なのがContaxのTシリーズ。特にT2は高級コンパクトフィルムカメラの象徴とも言っても過言ではありません。ボディはチタン、ファインダーはサファイアガラス、レンズは単焦点ゾナーを搭載という、素材、デザイン、機能の三拍子がそろった傑作です。
高級コンパクトフィルムカメラの名機 Contax T2
あまりの売れ行きに京セラが調子に乗ってしまったのか、ゴールドやブラック、プラチナなど様々なバージョンがあるのも特徴です笑。ただ今でもその所有欲も満たすために、世界中にT2シリーズを全部集めるコレクターがいるほど。また、ライカCMやリコーのGR、そして軍艦部のメーターがかっこよすぎることで有名なNikon 35tiなど。高級コンパクトフィルムカメラはそれぞれに独自のこだわりがあり、オリジナリティーにあふれているのが特徴です。特に35Tiのアナログメーターなんて、「開発者が本気で遊び心だすとここまですごいものができますよ」という素敵な想いしか伝わってきません。今となってはそのとがった特徴が性能比べばかりしている各社の現状を皮肉るかのようで、私の目にはかっこ良く見えます。
世界最小かつ最高の描写力!Minolta TC-1
では、このMinolta TC-1の特徴と言ったら何でしょう。TC-1の特徴はその小ささと描写力にあります。
「世界最小35mm フィルムカメラ」として、名刺ほどのサイズと3cmという驚異の薄さを持って、そのコンパクトさは世界中を驚かせました。Minolta TC-1が発売されて以降、世界最小を名乗るフィルムカメラは出ていないので「世界最小35mmフィルムカメラ」という称号は今後もTC-1のものと考えて良いでしょう。
そして、今でもTC-1のファンが多い理由がもう一つ。それは搭載されているレンズの描写力の高さです。
G-ROKKOR 28mm F3.5。
TC-1が発売され、その驚くべき描写力から、のちにLマウントのレンズ単体でも発売された、まさに名玉といえるレンズが、この世界最小ボディに搭載されているのです(数量限定で発売されたので、最近ではなかなかお目にかかれないレアレンズとなってしまいました)。
小さくて写りが良い、これは完全なる正義です。
The Camera(略してTC)という名前の由来にも納得がいきますね。
デジタルにはないドキドキ感、そして手軽さが魅力のコンパクトフィルムカメラ
TC-1を持って外に出ると、それはもう快適です。なんたって軽い。スマホくらいの重量なので、下手するとポケットにも入れられそうです。TC-1の重さに慣れてしまうと、デジカメやミラーレスに手を伸ばす機会が少なくなる可能性があります。もちろんフィルムなので、現像というめんどくさい工程がありますが、それでも軽いというのは性能なんだなと改めて感じますね。
軽いだけなら、スマホで良いやん。というお言葉もあると思います。それはごもっともですが、やはりそこはTC-1。G-ROKKORの描写力はスマホでは叶わないところはありますね。
自宅近所にて撮影(Minolta TC-1 作例)
28mmという広角もさるとこながら、何よりもこの味わい深い描写はフィルムならではです。もちろん、撮影した画像をすぐさま確認できないので「これで大丈夫かな?」と不安になりながら撮影します。しかもフィルムは有限なので、シャッターを切る緊張感がデジタルのそれとは大きく違ってきます。なんとなく撮るではなく、考えて撮る。できあがった画像を楽しむのではなく、写真を撮るという工程までも楽しむことができるのが、フィルムカメラの魅力だと私は思いますね。
横浜にて撮影 (Minolta TC-1 作例)
いい写真かどうかは現像してからわかりますが、出来上がった写真を見てどのタイミングでシャッターを切ったのか記憶に鮮明に残っているのもなんとも言えません。フィルムだとシャッターを切る回数は圧倒的に少なくなるので、場面場面が記憶に残りやすいのです。
渋谷スクランブル交差点(Minolta TC-1 作例)
まぁ、手振れ補正なんかもありませんから、かっちりした鮮明な写真が撮れないってことも多々有ります。渋谷の写真とか完全にブレてますから笑。でもそれが、渋谷の雑多な雰囲気と相まって、なんか良い感じの写真になったりするんです(必死な言い訳です、でもお気に入りの一枚です)。 デジタルでも色んな写真は撮れるんですけれども、なんかとっさに撮った一枚となると、フィルムの方が一枚上手な印象を持ったり…、これはかなり個人的な感想ですけどね。
ただ「最近写真に飽きてきたなぁ」という方は、こういった持ち運びも楽で、どんな画になるか写真ができるまでわからないフィルムカメラで遊んでみると、また違った楽しみを見出せるかもしれません。
新しいレンズも良いですが、高級コンパクトフィルムカメラがあると撮影に幅がでるかもしれません。ぜひお手持ちに一台いかがでしょうか?