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2017-11-11

怖い‥‥でも見たい!混雑必至の大人気「怖い絵」展に行ってきました!

「怖い絵」展に行ってきました。

一応肩書きの中にアートライターと書いている以上、たまには美術館に行ってアートについて知ったかぶったような顔をして、鑑賞せねばという残念な義務感があります。

今回の「怖い絵」展、非常にコンセプチュアルで面白い企画ということもあり大変人気で混雑していましたが、普段の企画展とは異なる雰囲気の作品が多くとても面白いものでした。

ちなみにこの展覧会の元ネタはこちらの本。

ベストセラーにもなったので、覚えている方も多いかもしれませんね。

今回の展示作品はこの本の著者である中野京子さんと共に選出されたということで、期待値もぐっと上がりました。早速このブログにてレビューさせていただきます。

人は「怖い」ものが好き?

「夢魔」ヘンリー・フューズリー Photo by Wikimedeia Commons

「怖いもの見たさ」という言葉があるように、人間というのは昔から怖いものが大好きです。現代で「怖いもの見たさ」と聞くと、心霊番組やお化け屋敷など、科学や普通の理屈では理解することができない超自然現象的なものが対象になることが多いですが、歴史上における「怖いもの見たさ」を振り返ってみると、人の死に関わる残酷・残虐性が高いものが考えられます。

例えばヨーロッパにおける公開処刑などは単に見せしめという意味だけでなく、処刑が民衆たちに対する一種のエンターテイメントの意味も持っており、公開処刑が行われる日は常にお祭り騒ぎだったそうです(もちろん見せしめという意味が大きいとは思いますが)。また、古代ローマのコロッセオでも剣闘士の殺し合いや奴隷とライオンなどの猛獣を戦わせるなど、今では目を覆ってしまうような残酷・残虐極まりない娯楽がめちゃくちゃ盛り上がっていたようですから、そういった「怖い=残酷・残虐な」ものを見てみたいという欲求は昔からあったのだと思います。

もちろん、現在ではそんなことが許されるはずはありませんが、残虐なシーンの多いホラー映画などの人気は一定してありますよね。例えば映画『SAWシリーズ』なんかは思わず目を覆いたくなるような見るに堪えないシーンが多いのですが、ものすごい人気だったと記憶してます。

で、今回の展示会もタイトルに「怖い絵」なんて冠されていますし、処刑直前の女性(レディージェーン)の作品を前面に推して宣伝しているくらいですから「ちょっとスプラッタホラーでも見に行くか」的な感覚で来場する方もいるかもしれません。(実際に最初、私はそんな風に考えていました笑)

が、そんなつもりで行くと絵を見て拍子抜けしてしまうので気をつけてください。

どちらかというと、露骨に凄惨なシーンを描写をしたような絵はゼロに等しいと言って良いでしょう。描写としての怖さであれば、それこそ『SAW』の方が圧倒的です。

では、「怖い絵」展、一体何が「怖い」のか?

スプラッタホラーのような思わず目を覆いたくなる怖さというよりも、描写されている場面の裏にある背景などを読み取ってそこに「怖さ」や「不気味」さなどを感じてもらう、そんな作品が多いと言えるでしょう。

例えば、今回の目玉であるボール・ドラローシュの「レディ・ジェーングレイの処刑」を見てください。

「レディ・ジェーングレイの処刑」ボール・ドラローシュ Photo by Wikimedeia Commons

漂っている作品の雰囲気こそ暗いですが、この絵自体は決して残酷・残虐極まりないという訳ではありません。しかし、これから数刻後にこの女性は確実に処刑され首が落ちるというシーンを想像するとどうでしょうか。そして、作品の中で描かれている一つ一つの描写の意味を考えていくとより、その「怖さ」は際立ちます。

少しネタバレになりますが、例えば

・台の下に藁を敷いているのは血を吸わさせるため

・死刑執行人の腰にさしているのはナイフで、首がうまく落とせなかった時にナイフで切り取るもの

などなど、描かれている場面の細かな背景を知ると背中がゾワッとしてきます。

しかも、この絵のキャッチコピーは

 

「どうして。」

 

シンプルですが、良くも悪くも心に響くコピーですよね。

実際にこの作品を目にした私が一番印象に残ったのはジェーン・グレイの表情です。「彼女の口元が少しゆがんでいるのはこれから死ぬという恐怖を押し殺しているからなのかな…」「布の下にある目はどんな感じなんだろう」なんて、作品の描写の一つ一つを読み取っていくと「怖さ」という感情だけでなく、人間が内に秘めている残虐性や不気味さなどを感じることができます。

まるで謎解きをしているかのように、考えれば考えるほど怖さを感じることができる。

何も考えずに見れば怖くないし、よーく考えるとめっちゃ怖い。自分のさじ加減で「怖い」を感じることができるというところも、この展示会が人気の理由なのかもしれません。

「怖い」。でも、見たい!

これは人の性ですからね。

だから、解説はとても大事

上述した通り、この展示会では直球で残酷な絵が見られるというわけではありません。

「この後の展開を想像するとちょっとゾッとするよね…」

といったように、予備知識や背景を知ることで「怖さ」を自分で想像するよう演出された絵が見られるというのが、この展示会の絶妙なポイントです。そのため、解説を読まないと全く怖くない絵になってしまうものも多々あります。

例えばウォルター・リチャード・シッカートが描いた「切り裂きジャックの寝室」。これなんて解説がなければただの暗い不気味な部屋の絵です笑。

「切り裂きジャックの寝室」ウォルター・リチャード・シッカート Photo by Wikimedeia Commons

しかし、この絵を描いたシッカート自身が切り裂きジャックであったというのが近年の有力な説である、という予備知識を得ることで絵の印象は大きく変わります。

何度も言うように、大事なのは絵に描かれている描写ではなく、その背景にあるストーリーやバックグラウンドです。十二分に展示会を楽しむためにも「なぜこの絵が怖いのか」という点を事前に知っておくことが重要です。

前もってネットでリサーチするなり音声ガイドを借りるなどしておいた方が良いでしょう(ちなみに音声ガイドの声は女優の吉田羊さんです)。個人的には美術館に入る前に並ぶことは必至なので、並んでる時にネットで解説などを読んだりすると、時間の有効活用になります。ちなみにオフィシャルサイトもありますので、チェックしてみてください。

「怖い絵」展 オフィシャルサイト

あと、こんな動画もyoutubeにアップされていました。並んでる時にでも見てみましょう。

「怖い絵」展の混雑状況について

今回私が行ったのは平日のお昼でしたが、予想通り並びました。ただ事前のリサーチでは、2時間くらい並ぶという風に描かれていたのですが、実際には1時間待ちでした。2時間は覚悟していたので、個人的には思ってたほど並ばなかったですね。

ただ、土日はかなり並ぶようです。2時間待ちもありえます。

もし並ぶのが嫌なのであれば、朝一で行くか閉館前を狙って行くか対策はしておきましょう。ちなみに混雑状況については以下の公式ツイッターから確認できます。

一応、事前に確認してから足を運ぶことをお勧めします。

まとめ

いかがだったでしょうか。

「怖い絵」と聞いて、目を覆うような凄惨な場面を描いた作品ばかりが並んでいるのでは?と思っていた人もいたのではないでしょうか。「思ってたよりも怖くないじゃん」なんていう人もいるかもしれませんね。でも、個人的にはわかりやすい残酷なシーンを描いた作品よりも「最初はどうってことないって思ってたけど、よく考えてみるとちょっと不気味だなぁ」と尾をひく感じの方が怖い気がします。切り裂きジャックの絵を描いたシッカートって何を考えて、あの絵を描いていたんですかね。考えるとちょっと背筋が寒いです。

普段あまり美術館に行かない方でも、今回の展示会は楽しめると思います。ぜひ行ってみて、怖い絵を堪能してみてください。

 

 


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