『新宿百景』森山大道 茂木モニカ 塩田正幸
『新宿百景』というタブロイド写真集を見ると、無性にチェキで写真が撮りたくなります。しかも、ウンと猥雑で混沌とした街でビルやら通行人やら看板やらをカシャカシャと…。
私がチェキを手に入れたのは昨年の夏。たまたま、仕入れた商品についてきて、手に取ったのがきっかけです。それまで、私が抱いていたチェキのイメージはパステルカラーで可愛らしいというものでしたが、このinstax mini 90は大人チェキとまで呼ばれていることもあり、非常にシックで落ち着いた外観。昔の銀塩カメラを彷彿とさせるデザインも相まって、一目見て気に入ってしまいました。今ではスナップ撮影だけでなく、旅行に行く時にもチェキを持って行くほどです。
誰でも撮れるメモのような写真ではなく、被写体の匂いのようなものを強烈に感じられる写真。それがチェキでは良くも悪くも半ば強制的に撮れてしまいます。キッチュといえばそれまでなのかもしれません。でも、そんな写真を無性に撮りたい時、私はチェキを持って街に出ます。
『新宿百景』森山大道
『新宿百景』はBEAMSが選んだ3名の写真家(森山大道、茂木モニカ、塩田正幸)が「instax mini 90」や「instax wide 300」を使って新宿を撮影したもの。BEAMSと富士フィルムの共同企画により、チェキのプロモーションの一環として無料で発行されたのですが、クオリティの高さはもちろんのこと、ページ数も64Pと非常にボリューミーで見ごたえがあります。
普段チェキを使わない写真家達の作品はどれもとても新鮮で、カオスで猥雑な新宿の街の雰囲気はチェキで撮った写真を映えさせます。新宿の人・場所・雰囲気…いろんな匂いが混じった作品、それが『新宿百景』です。
『新宿百景』茂木モニカ
デジタル全盛の今、写真の鮮明さが正義と考えられている節がありますが、実際にこの写真集を見ると「いい写真が、鮮明なカメラから生みだされるわけではない」という一つの答えのようなものが見えてきます。もちろん綺麗に写ることは一つの要素であるかもしれないけれども、それが写真の絶対的な指標ではないのだということがわかります。不鮮明であることで私たちの想像力が働き、脳内で補完されて完成される写真もあるのでしょう。それはそれで、一つの写真のあり方なのかなと思います。
『新宿百景』塩田正幸
3名の写真家が切り取った新宿の街並みは、それぞれの写真家の視点から撮影され、新宿という同じ被写体であっても全く異なる雰囲気や匂いが感じ取れます。
新宿という街を新宿らしく真正面に迎えて切り取った森山大道、新宿をポップでノスタルジックなイメージで切り取った茂木モニカ、私たちが知らない新宿の表裏を切り取った塩田正幸。チェキというちょっと特殊なカメラを使うことで、それぞれの個性が色濃く出ている作品でした。
この写真集に目を通すと、チェキに手が伸びてしまう自分がいます。自分もこんな匂いのある写真が撮りたいなと感じたり…。それが例えキッチュであったとしても、シャッターを切らなければこの衝動は抑えられないのかもしれません。