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2016-06-08

なぜHIPHOPダンサーはダボダボの服を着ているのか?

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「なして、そんなダボダボの服を着ているのか?」

会社を辞めてHIPHOPダンサーになったとき、そんな素朴な疑問を祖母から投げかけられたことがある。お前の身長は160cmを過ぎたくらいで終わっているのだから、あえてそんな大きな服を着る必要はないんだよと必死に諭され、思わず苦笑いをしてしまった。「いや、これはそういうファッションなんだ」と、一生懸命説明したが、全くもって理解されることはなかったと記憶している。きっと孫がバンカラな不良になってしまったと心配していたのかもしれない。

ダンサーはなんでダボダボな服を着ているのか?

確かに考えてみれば不思議な話である。激しく体を動かすダンスなのに、なぜあんなにも動きづらそうな格好をするのだろうか。僕もダンスを始めた頃は全く意味がわからずに、ただ周囲に合わせてそれっぽいルーズな格好をしていた。しかし、振り付けを考えたり、生徒にダンスを教えるようになっていくうちに、あのダボダボ感に衣装としての役割があるということに気づいた。

今回はそのダンスの衣装としての視点から「なぜHIPHOPダンサーはダボダボな服を着るのか」ということについて考察してみたい。

踊っているときの体のラインを誤魔化すことができる

例えば伸ばさなければならない肘とかを完全に伸ばさなくても、ダボダボな服がカバーし誤魔化してくれる、そういうことである。

まぁ、「ダンサーとしてどうなの?」という話になってくるかもしれないが、HIPHOPはバレエやコンテンポラリーのような「指先まで意識して」というダンスではなく、ノリが重視されるダンスなので(多分)そこはご愛嬌。「いかにキレイに踊れるか」ではなく、見ている人がハッと驚くクールな動きができるのかどうかの方が重要なのだ。

だから、一概に「それダンサーとしてどうなの?」と僕は思わない。

例えば、ウェーブを通したりする動きなどは体のラインが見えない方がカッコよく見えたりするから、僕は大きめのロングスリーブのTシャツを衣装としてよく着ていた。ロングスリーブを着ることで、体の中に生き物がいるような「エグさ」を際立たすことができるからだ。そういう意味では体のラインをごまかすというよりも、ダンスをより上手く見せるためのテクニックと考える方が適切なのかもしれない。

出典 Youtube  John Doe Waves 2010 より

動きが派手に大きく見える

オーバーサイズの服で踊ると動きは大きく見える。特に体の線が細い人はそうなのだが、ピチっとした服で踊るよりも、少しダボっとした衣装の方が踊っているときの印象が圧倒的に変わってくるのだ(もちろんいい意味で)。また、動くたびに服が揺れるので、振りが派手に映る。これはステップ系のダンスであるC-Walkなどが、特にその典型として挙げられる。素早いステップを踏むことで、ダボダボなパンツや上着が大きく揺れ、ダンス全体のダイナミックさを際立たせている。ちなみに、シャツやジャケットなどがダンスの衣装として選ばれるのもこの衣装の揺れによるところが大きい。視覚的に派手になるし振付のアレンジもしやすいのでそれらはとても有用な衣装なのである。

また、衣装とは言えないかもしれないが、腰にバンダナを結んだり、髪型をドレッドヘアにするのも同じだ。小物使いやヘアスタイルを工夫することで動きを大きく見せることができる。後述するLes Twinsなどはポケットを裏返したり、腰に帽子を引っ掛けるなど独創的な衣装のテクニックを駆使して振りを大きく見せたりしている(本人たちはファッショナブルな感覚でやっているかもしれないが)。

ダンサーの格好にそう言った理由があると知った上でダンスを見てみると、意外な発見があったりしてまた違った角度でダンスを楽しむことができるので、今後、機会があれば是非チェックしてもらいたい。

 

出典 Youtube C Walk Dance 2014 より

最近の流行りはジャストサイズ?

と、ここまで色々とHIPHOPダンスという視点からダボダボな服装についての考察を話してきたのだけれども、あくまでこれは僕がダンサーであった頃の話だ。10年以上前だから、もう化石のような話として捉えたほうがよいのかもしれない。

というのも、最近はダボダボな服よりもジャストサイズに近い服で踊る人も増えてきているからだ。例えばフランス出身の世界的人気双子ダンサーであるLes Twinsなどが良い例だ。僕が初めて彼らのダンスを見たとき一番最初に目が行ったのは、何を隠そう彼らが履いていたパンツである。

「あんなピチッとしたパンツでよくキレイに踊れるなぁ‥‥」と華麗に揃った二人のステップを食い入るように何度も見ながら、感心することしきりであった。もちろん彼ら独自の振り付けと技術あってのあのジャストサイズなパンツなのだということは付け加えておく。普通のダンサーがあの細いパンツで踊ったら残念な結果になってしまうことだろう。ただ、最近のダンサーはLes Twinsとまではいかないまでも、昔に比べると比較的ジャストサイズの服装で踊る人は多くなってきているのは確かである。90年代〜2000年代のダンスブームで流行っていた、ダボダボなデニムにオーバーサイズのトップス、バンダナにニューエラキャップといったギャングスタファッションで踊るHIPHOPダンサーは、今の時代ではもしかすると絶滅危惧種に近い存在なのかもしれない。

当時を知る僕としては少し寂しい話である。

 

出典 Youtube  Les Twins | Fusion Concept 2015 Open SHOW | OFFICIAL VIDEOより

まとめ

今回はHIPHOPダンサーがダボダボな服を着る理由について書いてみた。色々と異論がある方もいるかもしれないけれども、これはあくまで僕の個人的な見解によるところなのでそれほど気にしないでもらえるとありがたい。ただ、オーバーサイズの服を着ることはHIPHOPダンスをより上手く見せる演出であるというのはまぎれもない事実なので、雑学的な感覚で覚えておいてもらえれば嬉しい。

しかし、こうやって考えてみると、やっぱりマイケルジャクソンてダンスが驚異的に上手かったんだなと改めて感じる。あんな上下ともにピチッとした服で、多くの人を魅了できるなんて、本当にすごいとしか言いようがない。

 


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