toggle
2016-10-03

ゾッとするのに何度も観てしまう『時計じかけのオレンジ』の中毒性について【映画感想】

見る人が見れば最高に面白いと絶賛し、見る人が見ればトラウマになったと吐き捨てる映画、それがキューブリックの名作『時計じかけのオレンジ』。

あまりにも暴力的で凄惨なシーンが多く、映画史に残る問題作としてよく取り上げられる本作品ですが、個人的にはかなりツボで、なぜか何度も観たくなる中毒性があります。人によっては閲覧注意な映画なので、そこらへんも配慮に入れながら、『時計じかけのオレンジ』の魅力についてご紹介させていただきます。

あらすじ

clockworkorage1
photo by billyburroughs

近未来のロンドン。

主人公アレックスをリーダーとする不良グループ「ドルーグ」は夜な夜なやりたい放題で様々な暴力行為を楽しんでいた。ある日、ひょんなことからグループのリーダーが誰かであるかでアレックスはメンバーと揉めてしまい、グループ内に亀裂が入ってしまう。その結果、仲間に裏切られ殺人の罪に問われ警察に逮捕される。

裁判を受け、14年の刑を受けることに。

これまでとは打って変わり、刑務所の中で模範囚として振舞うアレックス。狙いは治療を受ければ刑期が短縮されるという「ルドヴィコ療法」なる洗脳療法の治験者に選ばれること。タイミングを見計らい、治験者へ立候補しアレックスは見事治験者として選ばれる。しかし、その治療はまるで拷問。まばたきを一切許さず、凄惨で残酷な映像を脳裏に焼き付けられる。結果、あれほど快感を覚えていた暴力や性に対して、アレックスは強烈な拒絶反応を示すようになっていた。この結果を受け、ルドヴィコ療法は成功と判断。アレックスは12年の 刑期を短縮され出所することとなる。

 毒の抜けたように暴力に拒絶反応を見せるアレックス。しかし、出所後に待っていたのはこれまで暴力行為を働いてきたツケとルドヴィゴ療法による苦しみであった・・・・

感想

賛否両論ある作品ですが、先にも書いたように私はこの映画は好きです。

ヴァイオレンスなストーリーとは裏腹に、目に映ってくる映像は美しく、BGMは軽快で高揚感のあるものばかり。凄惨な暴力シーンも、キューブリックの斬新な演出により、なぜか目を離すことができず、逆に作品の世界観にのめり込んでいってしまう、そんな魅力を感じました。

もともと「エグすぎてトラウマになる」という話を聞いていたので、初見はかなり覚悟を決めて観た記憶があるのですが、自分のハードルが高かったのか、思っていたよりもエグくなく、目を背けるようなことなく観ることができました(おそらくエグいシーンというのは、「ルドヴィゴ療法」を受けているところかと思います)。

ただ、確かに暴力シーンも多く凄惨な場面もあるので、人によっては受け付けない映画だろうというのは想像に難くないです。あとストーリー的にも「結局何言いたいんだか、理解できないわー」という人も多いのかなと思いましたね。

私はこの作品に関して「映画から感じるメッセージ性」的なことを考えて観てなかったので、ツボにはまったのかもしれません。確か、最初はオシャレ映画というレビューを見て手に取った気がします。なので、当時のイギリスの社会的な背景をほとんど感じることなく(少し風刺的な意味があるんだろうなーという程度で)、「メッセージ性よりも世界観を楽しむ」という観賞だったから、好きになれたのかなと思います。

個人的には、暴力的なシーンとかメッセージ性よりも、白いタイツの上にファールカップをつけて、ボーラーハットを被っている人たちをここまでオシャレっぽく魅せたキューブリックの手腕に方に目がいってしまいました。つくづく自分の薄さを感じますね笑。

clockworkorage2
photo by  thisarethefewofmyfavouritethings

イギリスでは社会問題となり上映禁止にされていた過去がある

実はこの「時計じかけのオレンジ」ですが、本国イギリスではキューブリック監督自身が上映を禁止したことでも有名です。というのも、映画公開後、この映画に感化された少年たちが暴力事件を起こすなど、問題が生じたため、監督自身が上映の禁止を要請したんだとか。

イギリスでも1971年12月に米国と同じオリジナルバージョンで公開された。1972年3月、同級生を殺害した14歳の少年の裁判中、検察はこの事件と『時計じかけのオレンジ』について言及した。バッキンガムシャー、ブレッチリーに住む16歳の少年が浮浪者の老人を殺害した事件でも関係性が取りざたされた。勅撰弁護士は彼が友人からこの映画のことを聞かされた後で犯行に及んだ事実を示し、「過激な作品、特に『時計じかけのオレンジ』は疑いようもなく、この事件に関係がある」と弁護した。キューブリックのもとには多数の脅迫状が寄せられ、自身と家族の安全を危惧したキューブリックの要請により1973年全ての上映が禁止された。英国での再上映が始まったのは、ビデオが発売されキューブリックが他界した後の1999年になってからである。

『時計じかけのオレンジ』Wikipedia より抜粋

 clockworkorage3
photo by washingtoncanard
当時の新聞記事の切り抜き。イギリスでは社会問題とされていた。

この映画の主人公であるアレックスの年齢は15歳ですから、同じような年齢の少年たちがこの映画をみて感化されてしまったようです。

これは私だけかもしれませんが、アレックスが「雨に唄えば」を軽快に口ずさみながら、女性に暴行を加えていくシーンは何度見てもゾッとしますが、一方でなぜか目を離せない不思議な魅力を感じるシーンでもあります。殺人や暴行をポップに表現するキューブリックらしい演出かもしれませんが、それに影響されてファッション感覚でアレックスたちと同様、暴行や殺人事件を起こしてしまったというのは残念でなりません。映画史上、最も物議をかもした作品と言われる所以がわかるような気がします。

もちろんマイナス面だけでなく、現在活躍しているクリエイターやアーティストの中にもこの映画から影響を受けたと公言している方はかなり多いです。いまだにこの映画をオマージュする映画を見かけることもあるほど、高く評価されている作品であることは間違いありません。

まとめ

暴力的なシーンや性表現がかなり多い作品なので、賛否両論あるのは納得です。ただ、インパクトはありますが、見るに堪えないほどエグかったり痛そうなシーンはないと思うので、それを懸念している方は安心してもらえればと思います(ルドヴィコ療法のシーンはまぶたを強制的に開けている装置をつけているだけです、痛いとはちょっとちがうかな)。

また、ストーリーとは別にやはりデザインやアート的な視点から映画を観てみると面白いかもしれません。ミルクバーのセットだったり、ミッドセンチュリーの家具、中世風の衣装など、好きな人であればまばたきがもったいないほどポップで目を引くようなものがバンバン目に入ってきます。

clockworkorage6
観る人を選ぶ作品ですが、はまってしまうと何度も観たくなる中毒性もあるので、アレックスのごとく洗脳されないように気をつけて下さい。ではまた。


関連記事